2010
5.28
東京都青少年健全育成条例改正案への声明文

東京都青少年健全育成条例改正案への声明文

社団法人日本漫画家協会
理事長 やなせたかし

 社団法人日本漫画家協会は、平成22年2月24日と議会に提出された東京都青少年の健全な育成に関する条例の改正案を受け、以下の通り声明する。

 日本の漫画は、これまでも一定のルールに基づきつつ創作され、他国諸地域に見ない広い裾野を持つ文化として伸びやかに発展を遂げて来た。

 青少年を健全に育成することは万人が望むところであり、当協会も切にそれを願うものであるが、このたびの改正案による基準では、本来一般書として販売されるべき作品にまで規制が及びかねない表記となっており、創作者の立場からは到底容認出来ない。

 新たな規制対象作品を、これまで以上に第三者による判断によって生みだすことは、どれほどの手続き、公平さを持ってしても、結局その判断は主観的にならざるをえず、適用される側の過剰な自制が働く結果として表現規制につながってしまう。

 青少年に節度ある読書環境を構築してゆくことは、社会全体が取り組むべき課題であり、我々創作者も大きな責務を負うべきであるが、本来望まれる規制の効果を超えて表現を圧迫するリスクが大きいとすれば、その社会的損失は計り知れない。

 都にはむしろ奨励する漫画作品を率先して選定、評価することをもって青少年に読ませたい「良書」とはかくあるべき、と指し示して頂きたいものである。

 我々は、創作活動の健全なる自由さを享受するだけでなく、今後も引き続き倫理観を持ち、社会的責任を自覚した創作活動を進めていく決意を新たにするとともに「改正案」に強く反対する事を表明し、声明とする。

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社団法人日本漫画家協会は、平成22年2月24日東京都議会に提出された東京都青少年の健全な育成に関する条例の改正案(以下「改正案」と称する。)について疑義を有するため意見を表明します。

当協会は、改正案の理由ないし目的が青少年の健全な育成をはかるためのものでありこの点について異論をはさむものではありません。しかし、その目的を達成するための手段において憲法上の問題が生じる可能性があるためさらに掘り下げて検討する必要があるものと考えます。

そもそも表現を規制する場合には表現やそれを保護することの繊細さに重点を置かなければなりません。表現の自由を代表とする精神的自由権は一度壊されると治癒不可能なデリケートな権利であるからです。このことは近代的意味における憲法が登場するまでの歴史的過程において経験上確立された観念であります。

憲法21条1項が保障する表現の自由には、これを保障するための理論およびこれを規制するための理論が数多く存在することはいうまでもありません。表現の自由は優越性の原則、事前抑制禁止原則、明確性の原則といった諸原則によって保障されています。たとえば、優越性の原則から生じる「二重の基準論」によれば表現を規制する条例などは厳格な審査基準によりその合憲性が判断されることになります。また、その条例は違憲である、と主張する者があった場合には違憲性の推定が働き、東京都の側において合憲であることを立証しえない限り違憲であるとの主張を覆すことはできないわけであります。それゆえ条例が達成しようとしている目的と、その目的を達成しようとしている手段との関係および手段自体において憲法上の問題が生じないよう十分に検討していただくよう要望する次第であります。

また、条例中の文言等が不明確であれば、漫画家など作家が表現活動を行う場合に自己検閲(self-censorship)に陥り表現の萎縮的効果が生じることはいうまでもなく明確性の原則に関する憲法上の重大な問題となります。

さらには、行き過ぎたパターナリズム(paternalism)になる危険性も孕んでおり、漫画家、出版者、インターネット事業者などが有する憲法22条1項の権利との関係でも問題が生じる可能性があるためさらなる検討が必要であると考えております。

以上のことから条例案には疑義があるため慎重な配慮のうえ審議願いたく意見を表明するものであります。

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