2013
1.17
出版者(社)への「著作隣接権」権利付与に対する見解(再)

出版者(社)への「著作隣接権」権利付与に対する見解

社団法人日本漫画家協会

電子書籍のニーズが高まりつつある現代において、そのスピードを求められる市場に対応しきれず煩雑化する権利処理や、容易な複製がもたらす悪質な権利侵害事案に迅速な対応を求められていることを踏まえ、出版者への隣接権権利付与という提案がなされていることにつき、出版者の提示する獲得理由を元に、協会としての見解を以下にまとめる。

1・電子書籍の流通と利用の促進効果

権利情報管理と処理能力の向上がメリットとするこの主張には一定の理解をするが、それならばむしろ個別の出版者の管理よりも、より広域で一括した管理が可能な、新たな集中処理機構の創設を前提にしたほうが、ユーザーの権利確認や処理の利便性につながり、より健全であると思われる。

またそのことによって、アウトサイダー的な出版者とであっても否応なく権利を持ち合わなければならなくなる、という著作者の不安やリスクを回避できる。

そして、より根本的な問題としては、むしろ権利者の分散による権利処理の煩雑化や、権利者同士の意向の違いによるコンテンツの塩漬け問題、新規参入事業者への過度な障害になるなどの懸念も否めない。

現状の海外巨大プラットフォーム事業社などによる市場の急拡大で、従来紙媒体での出版権により収益をあげていた国内出版者が、その新たな市場に参入し、その勢力に伍するため「隣接権者」という立場を欲することに疑問はないが、その外資の黒船市場に代わり得る国内市場の形成が出来ているわけではない以上、単なる権利取得とその行使に終始し、本来自由であるべきコンテンツの外資市場への参入を滞らせるなど、電子書籍流通の促進、という根本的な目的に逆行する危険性も否めない。

2・出版物に係わる権利侵害への対応

従来の書籍市場における国内出版者の海賊版対策を鑑みるに、訴訟リスクをとってまで対応しなければならない、経済的影響の大きい侵害案件は非常に限定的であり、個別に対応することが合理的かつ現実的であると考える。
その観点からすると、むしろコンテンツごとの個別委任契約での対応が可能であり、権利侵害対策を理由として出版者全体にあまねく権利付与しなければならないほどの必然性には欠ける、と言わざるを得ない。

最後に、文芸など文字によるコンテンツと違い、他業界での「原盤」にあたる「原稿」の制作とその費用負担という、隣接権者として負わなければならない義務をも含め、自身のプロダクションで完結させている「漫画」というメディアの著作者団体という立場からは、現段階での出版者への隣接権付与、という提案については、残念ながら否定的にならざるを得ない。

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